まるで水彩画!?やさしい色合いを写真で表現する秘訣
2016.06.23皆さん、こんにちは。写真家のTATSURO(たつろう)です。
私は普段、都内で自社撮影スタジオを経営しながら、主に広告・書籍・音楽の分野でポートレート撮影をしています。その仕事の合間に数年前から時間を作って世界へ旅に出ており、現在までで80カ国を渡航してきました。撮った写真はキヤノン、ニコンのメーカーギャラリーなどで新作発表、出版などをしております。
今日はここで僕がどのように海外で写真を撮り、作品を制作しているのかをお話しいたします。
まず、この写真は南アフリカのクルーガー国立公園で撮った1枚です。
この写真を見て、どのように思うでしょうか。個展会場に来たお客さんが開口一番に言うのは「これは写真ではなく絵画なのですか?」という質問です。絵画ではなく写真なのですが、そうなんです!そう思っていただければ大成功です。というのも、もともと私は学生時代に美術部に所属していたこともあり、その感性で写真を水彩画調に仕上げることを特徴にしているのです。
もちろん撮った時点で、このような雰囲気になるわけではなく、後処理を施しています。私の写真は世界各国に出向く分、撮るまでにかかる時間も多いですが撮影後のレタッチにも多くの時間をかけます。撮った時点ではまだデッサンの段階でしかなく、レタッチではキャンパスに筆で絵の具を足していくかのような作業に注力します。その作業のうちのひとつが、画面をいくつかに分けて撮り、後から合わせる作業です。写真は長方形の画面をひとつの枠として露出値を決定し、シャッターがきられています。
基本的に一般の方が設定している(初めから設定されている)ものは“多分割測光(キヤノンでは評価測光、ニコンではマルチパターン測光と呼ばれています)”といって、画面内の複数に分割された露光センサーで、それぞれの部位の光量を測定し、平均的な明るさを算出しています。この測光方式では写真内で光量の高い部位は白く飛び、光量不足のところは暗く沈みますよね。上記の写真は、空は明るすぎて色飛びしてしまい、地面は木々で覆われているため暗部が多くなっています。上下で光量差があるため、普通にシャッターを押すだけでは綺麗な写真は撮れないのです。
そのため、私がこの時に設定しているのは“中央部重点測光”といって被写体(この場合はキリン)を適正の明るさにして撮る測光方式。これでまずは1枚シャッターをきります(下の写真の①)。まれに“スポット測光方式”という測光モードでも撮ったりします。例えば、ろうそくの立てられたホールケーキを撮るときなど、明部と暗部がはっきりしている場合です。
次に、地上の木々に露出を合わせたカットを1枚(下の写真の②)。最後は、空に露出を合わせた写真を1枚(同じく③)。計3枚、撮ります。
たとえば空を適正露出に合わせてしまうと、キリンや木々は真っ黒に潰れていますし、逆にキリンや木々に露出を合わせた場合、空は真っ白に飛んでしまうのです。そのため、それぞれの写真で使用可能な部位(色データの残っているところ)を切り取って合わせるのです。このような作業をしているからこそ、どの部位を見ても色飛びや潰れのない完全な写真が作成できるのです。
続いてはこちらの写真、場所はアフリカ大陸のスワジランドという国です。最初の写真は3枚でしたが、こちらの写真は4枚を組み合わせています。どの部分かおわかりになるでしょうか?
地上を2分割、空を2分割です。地上を2分割にした理由は動物たちの向きや角度、体の模様によって調整しているからです。立ち位置によって、それぞれに当たる光の量は違ってきます。一体ずつを浮き上がらせて立体的に見せるためには露出設定の調節が必要です。超広角レンズで撮ることも多いため、左側と右側に位置する動物は同じ時間帯でも太陽光の当たり方が違います。両サイドで斜光と順光になるほど変わるので分割撮影は需要になってくるのです。
この写真は、アフリカ大陸にあるボツワナ共和国のチョベ国立自然公園。象の密集率は世界一といわれ、圧巻の象の群れに出合える場所です。合成で頭数を増やしているわけではありません(笑)。こちらは地上を3分割、空を2分割、なんと5枚を合わせています。理由は上記で述べた理由もありますが、もうひとつは画素数を稼ぐためです。
横幅の長い写真なので、個展などで私の写真を見た方から「これはパノラマモードで撮ったのですか?」と質問されることがあります。実はパノラマモードで撮ったのではありません。パノラマで撮ると上下が寸断されて、縦の画素数がもともとの半分ほどになってしまうので、個展会場などで大きく引き伸ばして展示している私にとってこれは痛い減数。そのため分割して組み合わせることにより、画素数を稼いでいるのです。
こちらは南アフリカのキンバリーという都市。150年程前にこの場所でダイヤモンドが発掘されてから、世界中の堀師が集い、ダイヤモンドラッシュが起こりました。写真に写っている穴はその時掘られたそうです。今でこそ長い年月を経て雨水などが溜まってしまいましたが、全盛期には深さが300m程あったそうです。写真の撮り方はもう、どういう作業をしたかわかってしまいますね。
カメラの進化により誰でも良い写真が撮りやすくなった現在、他者との差別化を図るには、撮影後のイメージ増幅がとても重要だと考えています。シャッターを押しただけで写るものが真実であり“写真”と名付けられた所以ですが、カメラ文明の進化と共に自分の写真の在り方、捉え方を日々考案させられます。
私の写真製作方法は、今はまだ賛否両論ありますが、そのうちこのような作業が一般的になり、今よりももっと簡単にこの作業ができる時代になるかもしれません。すでにカメラの設定でこのような操作ができるカメラもありますよね。ここまで読んでいただいた皆さんの写真ライフがもっと楽しく、もっと充実したものになれば幸いです。
もし私の写真に興味を持っていただけた方がいらっしゃればこちらの写真集も是非、見てみてください。
(発売:冬青社 定価:本体4,200円+税)
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